龍神金屏風点睛奉讃法要

龍神金屏風点睛奉讃法要

龍神図屏風「勝利」
由来書
 平成30年(2018)知恩院塔頭信重院にて発表龍神図屏風「勝利」は、作者が400年の伝統のある京都の寺院で大規模な個展を催すにあたり、展覧会の絶対的な成功を確信し感得した折に描いた作品です。個展では、倣唐獅子図屏風(縦2.5m,横5.5m)や瑞獣屏風などを発表し、日本画家として一か八かの勝負に踏み出した展覧会でした。
 京都でしかも超有名寺院での作品を発表は、日本画家にとってパリのルーブルで発表するよりも、ニューヨークのメトロポリタンで発表するよりも恐ろしい事です。日本でも他の地域であれば欺ける事も、京都の寺院では無理なのです。なにせ、直ぐ横に国宝や重文の作品があり、更に、ご住職をはじめご高覧の皆様も本物を見飽きるほど観てらっしゃる方々の前での発表ですので。
 結果は、推薦者、支援者の皆様が涙されるほどの成功でした。やれやれ、責任を無事に果たせた訳ですが、後から考えてみますと作者より推薦者、支援者の皆様方の方がよほどハラハラしていたのは察するに余りある事でした。

勝負に勝つ、と云うのは天命であり奇跡であり革新であると、その時に悟りました。
 建立以来400年の歴史で初めての日本画家の個展は名があり功がある者ではなく見えざる力に導かれなければ決して開かれない運命でした。成功は、真心でしか勝ち取れない奇跡。そして、絶対勝利は常に革新的で他に比べようのないものです。
 しかし、不思議なことに、この「勝利」の龍神のみが個展では目を入れずに展覧会の期日が来てしまったのです。ご慧眼のある方が思し召しあれば目は何時でも入れてしまおうと思っていたのですが叶わず。或いは、支援者の方々にどうぞとお勧めしても皆様たじろがれました。が、オペラ歌手:花月真先生のみが躊躇なく「いいよ、私が入れる。」と、引き受けて下さいました。大変、勇気の要る一筆だと思います。感謝致しております。経緯を考えますと花月先生でしか画竜点睛は出来なかったと申せましょう。

さて、作品にまつわる嘘の様な本当のお話、多分、奇跡か前世からの宿縁か。私の屏風の前では何時も不思議なことが起こります。

前出の知恩院塔頭信重院様での個展ですが、建立されたのは、戦国武将で有名な藤堂高虎で、たまたま、私が400年ぶりに再現した陣中屏風「唐獅子図屏風」は、まさに、藤堂高虎羽柴秀吉と共に観ていたもので、個展では霊前に捧げるような展示になりました。偶然か否か。
 その為か、屏風の前では偶然の出会いや再会が茶飯事に起こります。
 龍神屏風は題名ごとにいろいろ起こりますが、特に「勝利」の屏風は、花月真先生がよく歌われます「バス編曲 Nessun Dorma (from Turandot)/誰も寝てはならぬ (歌劇「トゥーランドット」より)」のクライマックスで高らかに歌い上げる歌詞「Vincerò! Vincerò! 消え去れ夜よ、夜明けに私は勝つ。」は、花月先生との運命的な出会いを予感していたかのように思います。
 力みなぎる絶対的な愛の力を信じる者にこそ相応しい「勝利の龍」です。
 向かって、右目は貴方の心臓(命)、左目は貴方の背後(真実の姿)を観るように描かれています。
 今日、その目が開かれます。
 龍神様にはこの世がどの様に見えるのでしょうか。

                  令和5年5月21日 西来寺にて

                          合掌 長谷川透 拝